柔道が専門ではない先生へ
「投げ技をどこまで扱えばよいか不安」「事故が心配で活動量を上げにくい」「中1・2と中3の授業が同じになってしまう」。中学校の柔道は、技の名前を並べるだけでは授業になりません。安全に次へ進める判断基準と、50分の中で何を見て、何を止めるかまで必要です。
結論から言うと
中1・2は、礼法・安全行動・受け身を土台に、基本動作と基本となる技で簡易な攻防へ進みます。中3は同じ内容を繰り返すのではなく、既習技を高め、新しい技や連絡技を扱い、相手の動きの変化に応じた自由練習・簡易な試合へ広げます。ただし、時数ではなく「安全に受けられる・支えられる・止まれる」が次へ進む条件です。
✓ この記事でわかること
- 学習指導要領に沿った「中1・2」と「中3」の違い
- 柔道が専門外でも組み立てやすい8時間の単元モデル
- 50分授業の流れ、先生の声かけ、止める基準
- スマホでそのまま見せられる安全・観察・振り返りカード
- 授業前に見ておきたい公式PDFと公式動画
この記事は、学校で柔道を担当する先生向けの授業設計例です。実施時は、学校の年間指導計画、施設、校内の安全管理体制、生徒の健康状態・体格差・技能差、指導者の専門性に合わせ、文部科学省・スポーツ庁・全日本柔道連盟の最新資料を優先してください。
この授業案の出発点
筆者自身も柔道は専門外でした。そこで、研修を受け、柔道を専門とする外部指導者の助言を得ながら、現場で迷わず進められる順序へ練り直しました。生徒と先生が同じ技能練習表を持ち、「今日は表のここ」を確認しながら進めることを中心にしています。技の図解は実技書、動きの見本は公式動画、授業の順序と記録は紙1枚に役割を分けます。
練習表と公式動画で進める柔道授業ロードマップ
最初から投げ技へ急ぎません。柔道着を着ること、礼をすること、相手を尊重することも武道の学習です。次の5段階を、生徒用の技能練習表と同じ順番で進めます。この記事では、各段階に対応する公式動画と練習表の確認項目も、同じ順序で並べています。
1|柔道の基本
2|補助運動と受け身
3|固め技
4|投げ技
5|条件付きの攻防
生徒への示し方
授業の最初に「毎回行うところ」と「今日進むところ」を練習表で指します。終わった項目へチェックを入れるため、実技が「ただ体を動かして終わり」にならず、定期テスト前にも学習内容を振り返れます。
最初に決めるのは「何を教えるか」より「何ができたら次へ進むか」
授業前のSTOP基準
- 中学校では抑え技のみを扱い、絞め技・関節技は扱わない。
- 受け身の安全が確認できない段階で、立位からの投げ・自由練習へ進まない。
- 体格差・体力差・技能差が大きい組をつくらない。組み替えを指示できる配置にする。
- 畳のずれ、隙間、壁との距離、待機場所、動線、体調を毎時間確認する。
- 頭部・頸部の接触、強い痛み、めまい、反応の異常があれば、その場で活動を止め、校内の緊急対応手順へ移る。
全日本柔道連盟は、初心者には受け身を取りやすい技から扱い、受け身と投げ技を別々に終わらせず、二人組で「投げる・受ける」の関係を段階的につなぐことを重視しています。また、受は自ら受け身を取り、取は技の後も受を支えます。技が掛かったかより、二人で安全に終えられたかを最初の評価にします。
中1・2と中3は、学習指導要領どおり分けて考える
現行の学習指導要領解説では、第1・2学年と第3学年の技能が明確に分かれています。学年だけで機械的に固定するのではなく、まず既習内容と安全技能を確認したうえで、次の深さを目安にします。
| 区分 | 学習の中心 | 技の例 | 授業づくりの判断 |
|---|---|---|---|
| 中1・2 | 基本動作や基本となる技を用いた簡易な攻防 | 膝車、支え釣り込み足、体落とし、大腰、大外刈り/けさ固め、横四方固め | 未経験者中心なら、受け身・抑え技・膝車・体落としを軸に、扱う技を絞る。大外刈りは特に段階的な安全指導を優先する。 |
| 中3 | 相手の動きの変化に応じた基本動作、既習技、新しい技、連絡技による自由練習・簡易な試合 | 小内刈り、大内刈り、釣り込み腰、背負い投げ、上四方固め/大内刈り→大外刈り等の連絡 | 新しい技を増やすこと自体を目的にせず、既習技とのつながり、相手の動きへの対応、見取り稽古、簡易な攻防へ深める。 |
非専門の先生向けの現実的な考え方
学習指導要領に例示された技を、1単元ですべて扱う必要はありません。受け身と関連付けやすく、校内で安全に指導できる技を精選します。全日本柔道連盟の授業ガイドでは、同系統の技をまとめる例として「膝車→体落とし」が示されています。
第1時|柔道着を着るところから始める50分
第1時は、技をたくさん経験させる時間ではありません。柔道着を自分で整え、礼法と安全の意味を知り、「相手がいるから学べる」という柔道の考え方を共有します。着装に時間がかかった場合は、受け身の導入を第2時へ回して構いません。
練習表の「今日はここ」
柔道の基本1~8(着装・礼法・座り方と立ち方・歴史・特性・理念・安全)+補助トレーニング+受け身の導入
| 時間 | 学習内容 | 先生の働きかけ |
|---|---|---|
| 0-10分 | 柔道着の名称、着方、帯、服装・爪・体調の確認 | 「相手の指や顔に触れるものがないか、互いに確認しよう」 |
| 10-18分 | 立礼・座礼、正座、座り方・立ち方 | 形だけでなく、相手への敬意と安全確認の意味を伝える |
| 18-25分 | 柔道の歴史・特性、精力善用・自他共栄 | 「勝つことだけでなく、相手と学び合う競技」と短く押さえる |
| 25-30分 | 停止合図、禁止事項、畳・待機場所・動線 | 「止まれ」で全員が離れ、先生を見る練習まで行う |
| 30-40分 | ストレッチ、長座・開脚、動物歩き、だるま、前転・後転 | 受け身に必要な丸まり方、首の保持、畳との接触に慣れさせる |
| 40-47分 | 低い姿勢から後ろ受け身の導入 | あご・頭・腕の面を一つずつ確認し、回数より安全を優先する |
| 47-50分 | 整理、座礼、練習表へチェック | 「今日、相手の安全のためにしたこと」を一つ書かせる |
毎時間の型|持ち物と説明を増やさない
着装・健康・畳・礼法
補助運動・毎時間の受け身
練習表で「今日のここ」を確認
本時の技能・見る人の助言
整理・礼・チェック・振り返り
使うものは、①このページの指導順序と動画、②生徒と共有する紙1枚の技能練習表、③技のイラストを確かめる実技書の三つです。プリントを増やさず、先生も生徒と同じ表を持って進めます。
中1・2|練習表と対応した8時間モデル
未経験者が多い学級を想定した一例です。安全確認が不十分なら、予定時数に合わせて先へ進まず、前の段階に戻ります。技能の習得が速い学級でも、毎時間の受け身と安全確認は省略しません。
| 時 | 主な学習 | 教師が確認すること | 次へ進む目安 |
|---|---|---|---|
| 1 | 着装、礼法、座り方・立ち方、歴史・理念、安全、補助運動、受け身導入 | 柔道着と畳、停止合図、相手を尊重する意味 | 合図で全員が止まり、安全の約束を言葉にできる |
| 2 | 補助運動、後ろ受け身・横受け身、二人組の補助 | あご、頭、腕の面。受が自分から受け身を取る | 低い姿勢で安全に反復し、役割を交代できる |
| 3 | 前受け身・前回り受け身、受け身の使い分け | 首と頭を守る、無理な速度や高さにしない | 自分に合う段階を選び、安全の要点を説明できる |
| 4 | 抑え込みの条件、けさ固め・横四方固め、返し方 | 首を圧迫しない。苦しい、痛いの合図ですぐ離れる | 抑える側・逃れる側が安全に力を調整できる |
| 5 | 姿勢、組み方、進退動作、崩し、体さばき | 投げずに、相手が動きやすい方向と足位置を確かめる | 統一した組み方で、合図に合わせて反復できる |
| 6 | 膝車を、横受け身と一体で段階練習 | 低い姿勢→投げずに入る→抵抗のない約束練習 | 取が最後まで支え、受が安定して受け身を取れる |
| 7 | 体落とし等から学級に合う技を精選、見取り稽古 | 技数を増やしすぎず、受け身との対応を確認する | 安全に終えた点を相手へ具体的に伝えられる |
| 8 | 条件を限定した攻防、相互評価、練習表の振り返り | 安全技能が未達なら、立位の自由練習へ進めない | 技能・安全・尊重・助言を練習表で振り返れる |
中3|「技を増やす」より、既習技をつないで攻防へ深める
中3は、受け身と安全確認を省略する学年ではありません。最初に既習内容を短く診断し、その結果から新しい技と連絡技を一つずつ選びます。
| 時 | 学習の深まり | 具体例 |
|---|---|---|
| 1 | 安全・受け身・既習技の診断 | 個人差を確認し、技と組み合わせを決める |
| 2-3 | 既習技を相手の動きの変化と結び付ける | 膝車・体落とし、けさ固め・横四方固めの見直し |
| 4-5 | 新しい基本技と連絡技 | 学校の既習内容と指導体制に応じて、小内刈り・大内刈り等から精選。連絡技は抵抗のない約束練習から始める |
| 6 | 見取り稽古と作戦 | 「いつ崩れたか」「次の技へどうつないだか」を観察する |
| 7-8 | 条件付きの自由練習・簡易な試合 | 使用する技、時間、強度、開始姿勢を限定し、安全に運営・評価する |
50分授業の具体例|膝車を約束練習へつなぐ時間
| 時間 | 生徒の活動 | 先生の声かけ | 止めて確認すること |
|---|---|---|---|
| 0-5分 | 健康・畳・服装・組・待機場所を確認 | 「始める前に、止まる合図と逃げる方向を確認」 | 畳のずれ、爪、柔道衣、体調、組の差 |
| 5-13分 | 後ろ・横受け身、二人組の補助 | 「あご・頭・腕の面。三つを相手と確認」 | 頭が畳に触れる、腕が遅れる、首が反る |
| 13-20分 | 姿勢・組み方・進退動作、崩し | 「投げずに、相手が動きやすい方向を探す」 | 力任せ、足元だけを見る、組手が統一されない |
| 20-27分 | 公式動画と教師の示範で、膝車と受け身を一体で見る | 「取の足だけでなく、受の着地まで見る」 | 説明を増やしすぎず、観察点を一つにする |
| 27-37分 | 投げずに入る→合図で約束練習 | 「1回で止まる。受が準備してから始める。取は最後まで支える」 | 抵抗、速さ、引き手を離す、周囲との接近 |
| 37-45分 | 3人組で取・受・見る人を交代 | 「安全に終えた点を先に一つ伝える」 | 助言が技の形だけになっていないか |
| 45-50分 | 整理、礼、カードで振り返り | 「次時も続ける安全行動を一つ書く」 | 痛み・違和感、畳、用具、次時の組 |
記事内でそのまま使える5つのカード
印刷物が手元になくても、スマホやタブレットでこの画面を開けば、提示・確認に使える文面にしています。
① 今日のめあて
相手を安全に受け止めながら、膝車の「崩し→体さばき→受け身」を同じリズムで行おう。
② 始める前の安全カード
③ 受の受け身カード
④ 取の安全カード
⑤ 見取り・振り返りカード
授業前に見ておきたい公式資料
学習指導要領の一覧表では、中1・2で扱う技と、中3で新しく扱う技・連絡技の関係を1ページで確認できます。文字化けしやすいPDF埋め込みではなく、記事内にはページ画像を置き、画像から公式PDFを開ける形にします。
公式動画+練習表チェック|授業順にまとめて確認する
スポーツ庁の「日本の武道を学ぼう」を中心に、学習指導要領解説で例示された中学校柔道の技を、授業の順番に並べました。スポーツ庁の教材に単独動画がない技は、講道館・全日本柔道連盟の公式動画で補っています。動画を見た直後に、筆者が授業で使っていた技能練習表の確認項目をチェックできる構成です。
全技を1単元で行うという意味ではありません
この一覧は、教材研究と既習内容の確認に使う「技の地図」です。中1・2は基礎を精選し、中3は既習状況と指導体制に応じて技を加えます。授業では練習表の「今日のここ」に対応する動画だけを見せ、観察点を絞ってください。
① 毎時間の土台|基本・礼法・受け身
② 中1・2|基本となる技を動画と練習表で確認
中1・2で例示される技を一覧にしています。未経験者が多い場合は、けさ固め・横四方固め・膝車・体落としなどから、安全に指導できる技を精選します。
③ 中3|既習技に加える技・連絡技の材料
中3では、受け身と中1・2の技を短く診断したうえで、次の技から学校の既習内容と指導体制に合うものを選びます。動画は教師の教材研究と見取りの焦点づくりに使い、専門的な動作を映像だけで生徒に模倣させないようにします。
動画と練習表の使い方
- 授業前に先生が公式動画で全体像を確認する
- 授業では「今日の技」の短い部分だけ見せる
- 動画直下のチェックを、生徒と一つずつ読む
- 実技後、A4技能練習表の同じ項目に印を付ける
この記事と授業実践パックの使い分け
この記事で確認できる内容
第1時からの実践順序、学年別の考え方、8時間モデル、50分の流れ、安全判断、声かけ、観察ポイント、スマホで見せられるカード、公式資料・動画まで、この記事で確認できます。まず全体像をつかみ、学校の実態に合わせて授業を組み立ててください。
中学校 柔道|授業実践パック
専門外でも、授業の順番と安全の要点を見失わないために

980円
記事で確認した授業の流れを、体育館ですぐ使える形にまとめた教材です。完成した練習表を印刷すれば、生徒と先生が同じ「技の地図」を持って授業を進められます。
セット内容
- 生徒用技能練習表・印刷用PDF:柔道の基本から投げ技までを見開きで確認
- 編集用Word:学校の実態や扱う技に合わせて変更可能
- 教師用実践ガイドPDF・全9ページ:配布方法、毎時間の流れ、安全な段階化を整理
- 印刷方法:B4片面・内側見開き・外側白紙で使う手順を掲載
こんな先生に向いています
- 柔道が専門外で、授業の順番に迷う
- プリントを増やさず、生徒と同じ表で進めたい
- 授業の内容を定期テストの振り返りにつなげたい
- 安全面の要点を短時間で確認したい
セット内容と使い方を確認して、そのまま購入できます。
次の授業準備に|中学校の授業実践パック
生徒に配る練習表や、学校に合わせて編集できる資料を用意したい先生へ。体育.netの有料教材は、次の3種目です。
柔道|授業実践パック技の順序を共有する技能練習表と、授業運営の教師用ガイド。PDF・編集用Word教材の内容・価格を見る →
バレーボール|授業実践パックアタックから三段攻撃へ。技能練習表と学習記録を授業に。PDF・編集用Word教材の内容・価格を見る →
ダンス|授業実践パック基本ステップ表、構成表、評価シートでグループの作品づくりを支援。PDF・編集用Excel教材の内容・価格を見る →3教材はそれぞれ別売りです。内容・形式・価格を各販売ページで確認できます。
参考資料
- 文部科学省:中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 保健体育編(令和6年12月一部改訂)
- 全日本柔道連盟:安全で楽しい柔道授業ガイド
- 全日本柔道連盟:安全指導の資料
- スポーツ庁:武道学習用教材「日本の武道を学ぼう」
- スポーツ庁:中学校体育実技 指導資料動画
※本記事は授業づくりの参考情報です。具体的な技の扱い、練習姿勢、組ませ方、活動量、簡易な試合の実施は、公式資料と校内の安全管理体制を確認し、指導者の専門性・施設状況・生徒の健康状態に応じて判断してください。
